光琳「紅白梅図屏風」の金と銀
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東風ふかば・・・の、香りを漂わせ、もう、春はそこに来ているようです・・・
「梅」と云えば「光琳の梅」・・・
江戸時代の元禄と云うきらびやかな時代が終わりを告げる頃、江戸詰となったパトロン兼援助者の京都の銀座(貨幣鋳造所)の役人・中村内蔵助を頼り江戸へ下って、鳴かず飛ばずのままの5年余の暮らしを終えて、京都に戻った光琳は、正徳元年(1711年)に新町通り二条下ル(二条城の東方)に新居を構える。ここで陶芸家の弟・乾山(けんざん)との合作による陶器の絵付けや手描き小袖の絵付け、漆工芸品の意匠などを制作し、そして晩年に制作された静岡県熱海市のMOA美術館蔵の「紅白梅図屏風」はこの屋敷の2階の画室で描かれている。光琳が他に梅を題材にした絵は、東京国立博物館蔵の「竹梅図屏風 」や、出光美術館蔵の「紅白梅図屏風」、個人蔵の立葵を描いた2曲1双の「孔雀立葵図屏風」などが残されている ↓ (以下)・・・
で、問題のMOA美術館蔵の「紅白梅図屏風」・・・
作品の製作技法は、明治の頃は水紋を群青で描かれたと云われ、その後銀箔を硫黄で変色させたとか、或は染織の技術による型紙によって描かれたなど、諸説唱えられてきた。そして、屏風の金地の背景については、2003年から翌年にかけての東京文化財研究所の蛍光X線による調査では、金箔を貼ったものではなく、金泥(金粉を膠で溶いた絵具)を使って描き、金箔の市松の様な継ぎ目(箔足)をわざわざ描き出していた可能性が指摘された ・・・
"Red Prunus and White Prunus"
しかし、2010年に、作品を所蔵している「MOA美術館」の発表では、X線回析法による再調査で、金箔を貼ったものという調査結果が出たとしており、NHKでは幾度か放送されて来た。NHK BSプレミアム「極上美の饗宴」の<黒い水流の謎>として、背景は金箔で、水流は銀箔が黒化した可能性が高いという新事実から、日本画家の森山知己さんが「紅白梅図屏風」の描法を再現したり、或は、BS朝日の「エコの作法」で放送された「MOA美術館」の科学調査では ・・・
1)中央の川の部分に銀が、銀箔の状態で残っている
2)川の黒色の水流は、硫化銀(Ag2S:鉱物名 針銀鉱)である。
3)金地と、中央の川の銀の定量分析から、用いられた金箔、銀箔の厚みを推定
5)流水部分黒い格子模様は、銀箔の重なった箔足である
6)金地は金箔である
などから、光琳は金地には金箔をはり、中央の川に銀箔をはって、防染剤(硫化反応を起こさせないマスキング材)で曲水の流水模様を描き反応を止め、その他を反応させ硫化銀の黒い川の流水模様をつくり、銀箔全体に防染剤を塗り保護皮膜を作り、それが年月と共に白い流水が赤く変化した。そして左右の金箔の画面には100年前の俵屋宗達のたらし込みの絵画技法で紅白の梅を描いた事がおおむね判明した・・・
http://www.facebook.com/moamuseum
昨年末実施した「紅白梅図屏風 研究会」において、同作品の科学調査の結果が報告されました。特に作品中央の流水部には銀箔が使われていることが明確になり、その復元画像と共に、新聞、テレビ等で広く報道されました。
熱海|MOA美術館|催し物概要
http://www.moaart.or.jp/event.php?id=122
「光琳の梅」は、彼が描く他の梅と同じく、ほとんど花はパターン化され、あたかも文様や家紋の様に平面的に処理されて、友禅染の型紙で吹き付けたかの様にベタ塗りで描かれている。金箔の下地に絵の具が乾かないうちに色を混ぜ合わせて、微妙に色が掛け合わされていくたらし込みの技法と、様式化された平面的な梅や、巧みに友禅の技法や工芸的手法を使っている黒い水流。さてこの名画、今までサラリと見ていたようだが、いやはや相当な「技あり」で非常に奥が深い・・・
"Red Prunus and White Prunus (left hand screen)"
"Red Prunus and White Prunus (right hand screen)"
尾形光琳 (万治元年1658年〜享保元年1716年)は・・・
京都の呉服商「雁金屋」の当主・尾形宗謙の次男として生まれ、光琳の曽祖父の尾形道柏・夫人は本阿弥光悦の姉であり、光悦と光琳は遠い姻戚関係にあたる。そして、光琳の兄が家督を継いだ頃「雁金屋」の経営は破綻していたが、生来遊び人であった光琳は遊興三昧の日々を送り、相続した莫大な財産を湯水のように使い果たしていた・・・
やっと、40代になって画業に身を入れ始め、本格的に絵を制作したのは、初期の代表作で、法橋の位を受領した元禄14年(1701年)44歳前後の「燕子花図」から59歳で没するまでの15年間位だと推定されている。
その短い10数年間の制作期間に多数の名品を残し、装飾的な「光琳模様」という言葉を生み「琳派」を再形成し、今日に至るまで日本の絵画、工芸に留まらず世界中に大きな影響を与え、58年の生涯を閉じた・・・
そして「淋派」とは・・・
本阿弥 光悦を祖とする琳派は、江戸初期に活躍した謎の多い天才芸術家・俵屋 宗達(生没年不詳)を生む。宗達は晩年、最高傑作「風神雷神図屏風」を描き、京都・妙光寺(1818年から1829年頃に建仁寺に渡たる)におさめる。
そしてその後、宗達の絵からほとんど100年近く経った江戸中期。宗達を慕う光琳は、その妙光寺にあった宗達の風神雷神図の模本を作り「風神雷神図屏風」(東京国立博物館所蔵)を完成する。
時代はさらに下って幕末期。光琳の模本・風神雷神図屏風は、江戸の地にあり、大名姫路藩主の次男で光琳の信奉者であった酒井抱一は、宗達の屏風があることなど夢にも思わず、その作品を光琳オリジナルの作品と誤解し、かつての光琳と同じように模本し「風神雷神図屏風」(出光美術館所蔵)を制作する。
それは、狩野派や円山派といった他の江戸時代の流派の様に模写を通じて直接、師から画技を学んだのに対し、光悦から宗達に、そして光琳、抱一へと、琳派では受け継がれて行く年齢差や時間が約100年程であったり、場所や身分が遠く離れた人々によって受け継がれた事は、他の流派には類を見ない特色であり、同じ主題や図様、独特の技法を意識的に選択・踏襲することで流派のアイデンティティを保持し、絵師独自の発見と解釈を加え再構成し、歴代の琳派の師を超えて行く。それは、琳派が持つ王朝時代の古典の神髄と、明快で装飾的な意匠感覚をもって、時代の中に新たな芸術を生み出してきた琳派の継承と創造の深さと云える・・・
ブログ内参考サイト|ぶらり京都-10 [建仁寺・風神雷神図]
http://guchini.exblog.jp/i213/
ブログ内参考サイト|光琳とクリムト[前編] - 2人の様式美 -
http://guchini.exblog.jp/i197/
ブログ内参考サイト|光琳とクリムト[後編] - 2人の様式美 -
http://guchini.exblog.jp/i196/
(以下・参考サイト)
琳派は、桃山時代後期に興り近代まで活躍した、同傾向の表現手法を用いる造形芸術上の流派、または美術家・工芸家らやその作品を指す名称である。本阿弥光悦と俵屋宗達が創始し、尾形光琳・乾山兄弟によって発展、酒井抱一・鈴木其一が江戸に定着させた・・・
http://ja.wikipedia.org/wiki/琳派
本阿弥 光悦(ほんあみ こうえつ、永禄元年(1558年) - 寛永14年2月3日(1637年2月27日))は、江戸時代初期の書家、 陶芸家、芸術家。書は寛永の三筆の一人と称され、その書流は光悦流の祖と仰がれる・・・
http://ja.wikipedia.org/wiki/本阿弥光悦
俵屋 宗達(たわらや そうたつ、生没年不詳 - 慶長から寛永年間に活動)は、 江戸時代初期の画家。通称は野々村宗達。号は「伊年」あるいは「対青軒」ほか・・・
http://ja.wikipedia.org/wiki/俵屋宗達
尾形光琳は、後代に「琳派」と呼ばれる装飾的大画面を得意とした画派を生み出した始祖であり、江戸時代中期を代表する画家のひとりである。主に京都の富裕な町衆を顧客とし、王朝時代の古典を学びつつ、明快で装飾的な作品を残した。その非凡な意匠感覚 ...
http://ja.wikipedia.org/wiki/尾形光琳
尾形 乾山(おがた けんざん、 寛文3年(1663年) - 寛保3年6月2日(1743年7月22日) は、江戸時代の陶工、絵師。名は惟充。通称は権平、新三郎。号は深省、乾山、霊海、 扶陸・逃禅、紫翠、尚古斎、陶隠、京兆逸民、華洛散人、習静堂など。一般には窯名 ...
http://ja.wikipedia.org/wiki/尾形乾山
「極上 美の饗宴」|12月19日|黒い水流の謎|尾形光琳“紅白梅図屏風”|ワクワク!NHK
琳派の革新の秘密を探るシリーズ。2回目は、屏風の真ん中に黒い水の流れがどんと描かれた、異色の国宝、尾形光琳(1658-1716)の「紅白梅図屏風」。最大の特徴は、水流の黒い色と、その中にデザインされた渦巻き文様である。この水紋のデザインはどこから来たのか、果たしてこの水流は元々黒かったのか、そしてこの水流で光琳は何を象徴したのか、「紅白梅図屏風」は幾つもの謎に包まれている。
近年、所蔵者のMOA美術館は、「紅白梅図屏風」の技法の謎を探るため、大規模な科学調査を行ってきた。その結果、金箔か金泥かの議論が行われてきた背景は金箔であり、また水流は銀箔が黒化した可能性が高いという新事実が分かってきた。
番組では、この科学調査の結果をもとに日本画家の森山知己さんが「紅白梅図屏風」の描法を再現するとともに、グラフィックデザイナーの佐藤卓さんが水紋のデザインの秘密を探り、「紅白梅図屏風」の謎に迫っていく・・・
http://www.nhk.or.jp/bijutsu/kyoen/index_12.html
NHK「日曜美術館」の番組公式サイト
[放送]毎週日曜あさ9時~10時[再]翌週よる8時~9時 国内外の古典美術から現代アートまで、美しい映像と一流の専門家の解説で美の秘密に迫ります。
http://www.nhk.or.jp/nichibi/
尾形光琳 国宝「紅白梅図」描法再現の記録
昨年12月放送<NHK BSプレミアム「極上美の饗宴」「シリーズ 琳派・華麗なる革命 黒い水流の謎~尾形光琳“紅白梅図屏風”」>の番組内で紅梅を描法再現して描く機会をいただきました。撮影は制作行程全てに渡っており、放送されなかったカットもかなりありますが、限られた放送時間の中でコンパクトに解りやすくまとめてくださったと感謝するばかりです。放送後、「白梅は?」との声もいただき、私自身もこの際と白梅を暮れから1月中旬にかけて制作しました。その過程、思った事、そして、、、、などを画像で紹介します。
2012年02月02日(木)| 材料技法
◆凡そ300年前、尾形光琳が描き上げたと考えられる「紅白梅図」当時の姿を、東京理科大の中井泉教授の科学調査に基づいて再現するNHKの番組企画に参加させてもらい、描法の再現を試みました。その経過、描法などは、すでに紹介した通りです。
http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2012/012401/index.html
実際に制作してみて、考えたり、気づいた事など。
関連記事:http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2012/020201/index.html
黒い水流の謎
http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2012/020201/index.html
尾形光琳 国宝「紅白梅図」描法再現の記録 その1
http://blog.livedoor.jp/botiiko/archives/52225103.html
尾形光琳 国宝「紅白梅図」描法再現の記録
http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2012/012401/index.html
尾形光琳・・国宝 ”紅白梅図屏風“
http://aokisekkei.exblog.jp/18014161
黒い水流の謎~尾形光琳 “紅白梅図屏風”
http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/topcontents/news/2011/122301/index.html
森山知巳|オフィシャルサイト
http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/index.html
日本画家・森山知己氏による「紅白梅図屏風」(復元)展示
昨年末に報告された国宝「紅白梅図屏風」科学調査の結果に基づき、日本画家・森山知己氏によってその復元作品が制作されました。その制作過程は、2月5日放送のNHK Eテレ「日曜美術館」で紹介され、大きな反響を得ています。
この度、森山氏のご厚意により、お客様のご要望に応え、開催中の展覧会「開館30周年記念 国宝紅白梅図屏風 所蔵名品展[絵画・書跡]」にあわせ、本復元作品を展示致します。国宝「紅白梅図屏風」とともに、是非ご鑑賞ください。
【概要】
展示期間: 2011年2月10日(金)~3月2日(金)
展示会場: MOA美術館 展示室2
http://www.moaart.or.jp/event.php?id=124
森山知己さん - MOTOYA
生き生きと人生を謳歌している人を訪ねまわって、早6回目となりました。さて今回は、 東京から吉備高原に仕事の拠点を移して大活躍中の日本画家・森山知己さんにお話を伺いました・・・
http://www.motoyanet.jp/motoya/01_peo/006/index.htm
http://omsolar.jp/info/interview35.html
尾形 光琳|光琳・解き明かされた国宝の謎
http://www.kanshin.com/keyword/549269
[PDF] 尾形光琳筆 紅白梅図屏風の蛍光X線分析
(早川 泰弘・佐野 千絵・三浦 定俊・内田 篤呉)
http://www.tobunken.go.jp/~hozon/pdf/44/04401.pdf
NHK BSプレミアム
極上美の饗宴 シリーズ琳派華麗なる革命2▽黒い水流の謎~尾形光琳“紅白梅図屏風”
日本を代表するデザイン美の傑作、尾形光琳の「紅白梅図屏風」。最大の魅力は、真ん中に大胆に広がる水流。黒々とした水流が美しいデザイン文様に覆われている。どうやって描いたのか? 長く謎とされてきたが、近年、所蔵する美術館が、技法の謎を探るために科学調査を行ったところ、新事実が明らかになった。調査を基に日本画家・森山知己さんが「紅白梅図屏風」の描法を再現しながら、水流に隠されたデザイン美の秘密を探る。
今日の面白TV12/19 [TV]
極上美の饗宴 シリーズ琳派華麗なる革命2▽黒い水流の謎~尾形光琳“紅白梅図屏風”
12/19 (月) 21:00 ~ 21:58 (58分) NHK BSプレミアム(Ch.3)
日本を代表する傑作にして謎の多い尾形光琳の「紅白梅図屏風」。最近の科学調査で画期的新事実が明らかに。光琳の描法を推理しながら、華麗な水紋のデザインの秘密を探る。
黒い水流の謎~尾形光琳“紅白梅図屏風”
2011年12月19日放送 NHK BSプレミアム「極上美の饗宴」「シリーズ 琳派・華麗なる革命 黒い水流の謎~尾形光琳“紅白梅図屏風”」再放送は、1月4日(水)深夜【5日(木)】午前1:00~1:58です。
尾形光琳 Ogata Korin|1658-1716 | 日本 | 琳派・日本画絵師
http://www.salvastyle.com/menu_japanese/korin.html
竹梅図屏風 (Bamboo and plum tree) 18世紀(江戸時代)
各65.2×181cm | 2曲1双・紙本金地着色 | 東京国立博物館
http://www.salvastyle.com/menu_japanese/korin_bamboo.html
熱海|MOA美術館|催し物概要|CGで再現した紅白梅図屏風展示
http://www.moaart.or.jp/event.php?id=122
http://www.facebook.com/moamuseum
昨年末実施した「紅白梅図屏風 研究会」において、同作品の科学調査の結果が報告されました。特に作品中央の流水部には銀箔が使われていることが明確になり、その復元画像と共に、新聞、テレビ等で広く報道されました。 当館では、開催中の展覧会「開館30周年記念 国宝紅白梅図屏風 所蔵名品展[絵画・書跡]」にあわせ、今回の科学調査の結果に基づく、CGによって復元させた紅白梅図屏風の実物大のレプリカ、科学調査の内容を示したパネルを展示しています。
【展覧会概要】
名 称 開館30周年記念 国宝 紅白梅図屏風 所蔵名品展[絵画・書跡]
会 期 1月27日(金)~3月2日(金)
会 場 MOA美術館 静岡県熱海市桃山町26-2
開館時間 午前9時30分~午後4時30分(入館は4時迄)木曜休館
観 覧 料 一般 1,600円、高・大学生 800円、中学生以下無料
●団体割引は10名様以上
●満65歳以上 1,200円
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