デ・キリコの「哲学仕掛けの風景」・・・それは Déjà-vu
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シーンとした静けさのなかでゼンマイ仕掛けのような?
不思議にコチコチと脳の何処かで鳴る振り子時計の歯車のような音が聞こえてくる・・・
しかもその絵は、実際は一度も体験したことがないのに、すでにどこかで体験したことのように感じる既視感(きしかん)や既体験感(きたいけんかん)と云われる記憶の再認障害を、彼の云う哲学的な「形而上」的に何かを感じさせる仕掛けがあるようだ・・・
その、既視感(きしかん)や既体験感(きたいけんかん)とは、以前すでにその体験や情景を見たことがあるという感じを抱く心理学や脳神経学的な心的体験と云われ、フランス語でデジャヴュ"déjà-vu"などと呼ばれる・・・
"Mystery and Melancholy of a Street" 1914年|油彩・キャンバス|87cm×73cm 個人蔵 アメリカ|Private Collection ジョルジョ・デ・キリコ|Giorgio de Chirico(1888年〜1978年) |
哲学となれば古代ギリシャの"哲学:Φιλοσοφία:philosophía"は、紀元前399年「ソクラテスの弁明」からプラトンにアリストテレスへ・・・
そして彼の絵もその背景には哲学的な古代ギリシャの遺跡か史跡のようなものが描かれ、それはもはや遠く忘れ去られた街、静けさの中で、強い陽射し、澄んだ空気、長い陰、人影も少なく住む人が居るのかいないのか?
そこにはただ哲学的に思考する時が流れる・・・コチコチと、
"Piazza d'Italia" 1914年?|油彩・キャンバス|同名作品多数 ジョルジョ・デ・キリコ|Giorgio de Chirico(1888年〜1978年) |
ジョルジョ・デ・キリコ(Giorgio de Chirico)は、1888年ギリシアのテッサリア(Θεσσαλία / Thessalía)で、イタリア人の鉄道の敷設の技師の家に生まれ、アテネの理工科学校に通い絵を描き始める・・・
ギリシャ|テッサリア|Θεσσαλία Στερεά Ελλάδα|Googleマップ
←「自画像」1920年
"The Mathematicians"1917年 →
pencil/paper/31.2 x 21.9 cm
Museum of Modern Art, USA
1906年に家族はギリシャを離れミラノを経てフィレンツェに移住し、デ・キリコは翌年の1907年にドイツのミュンヘンの美術アカデミーに入学。ショーペンハウアーやニーチェの哲学に影響を受け青年期を過ごし、その後トリノやフェラーラの街の不思議な美しさにインスパイアーされる。
1911年にパリへ・・・
モンマルトルでピカソやアポリネールに出会い、翌年の1912年にサロン・ドートンヌに、1913年にパリのアンデパンダン展に出展、詩人で美術評論家のギョーム・アポリネールに「形而上絵画:Peinture métaphysique」と評され美の時代に登場する・・・・
"Hector and Andromache" 1912年?|油彩・キャンバス|同名作品多数 Galleria Nazionale d'Arte Moderna e Contemporanea, Rome, Italy ホメロスによって謳われたトロイア戦争の物語の一場面。 トロイアの勇将ヘクトールは、愛する妻のアンドロマケに別れを告げ、戦場に赴く・・・ ジョルジョ・デ・キリコ|Giorgio de Chirico(1888年〜1978年) |
その時代は・・・
パリで1874年の「第一回印象派展」後、絵画は革新的な時代の扉を開け、印象派に始まる光りの筆触分解から間もなく、スーラーの点描画へ、そして、1904年マティスやルオーのフォーヴィスム(Fauvisme)によって色彩の色の意味は自由に塗りわけられ、1907年のピカソのキュビスム時代「アヴィニョンの娘たち」によって形は粉々に砕かれ分解された・・・
生活との関わりも、イギリスの産業革命が浸透し、新しい工芸運動「アーツ・アンド・クラフツ」の動きは、フランスのアール・ヌーヴォー(Art Nouveau)、ドイツのユーゲント・シュティール (Jugendstil)、オーストリアのウィーン分離派(Sezession)と、新たな生活文化スタイルが登場する・・・
↓「皇子の玩具」1915年/「大きな塔」1913年 →
そして1892年にはムンクがベルリンで「叫び」を、退廃的なムードを漂わせるウイーンの世紀末、クリムトの「接吻」が1907〜1908年に描かれ、1910年にはエゴン・シーレが登場し人間の内面が赤裸々に描かれる。
1911年のカンディンスキー「印象-Ⅲ/コンサート」の抽象画や、アンリ・ルソーのように何も属さない飛び抜けた個性や、シャーガールの絵には物語が埋め込まれ、1928年パリ、モンパルナスのエコール・ド・パリ(École de Paris)へ、百花繚乱に咲いた輝かしき「美の華」の狂騒の時代が誕生する・・・
そんな時代に、ジョルジョ・デ・キリコの哲学的「形而上絵画」は思考する・・・コチコチと、
"Roger-Viollet" 1919年|油彩・キャンバス|85cm×69cm パリ市立近代美術館蔵|Musée d'Art Moderne de la Ville de Paris ジョルジョ・デ・キリコ|Giorgio de Chirico(1888年〜1978年) |
その風景は不思議にも?
トロイの木馬のような木製のマネキンに・・・
音楽のメトロノームのチックタクと鳴る音楽室か?.....
それとも、
放課後、誰もいない標本のような理科室か?.....
デッサンの石膏像のある美術室か?.....
ギリシャ神話のバベルの塔か、古いその設計図か?.....
いやいや・・・
↓「愛の歌」1914年
トロイ戦争でギリシャ軍のアキレスと戦った、
トロイの勇将ヘクトールとその妻アンドロマケか!?・・・
白昼夢のように ...
それは、
脳のなかで?
強い陽射し、
透明感、
静けさ、
澄んだ空気、
長い陰、
街角、
広場、
駅、
塔、
像、
それは、
どこかで見た風景!?
そして絵はどこかで今も脳が思考する時を刻むゼンマイ仕掛けの音が鳴っている・・・コチコチと、
"The Seer" 1914年〜1915年|油彩・キャンバス|89.6cm×70.1cm ニューヨーク近代美術館蔵 |MoMA:The Museum of Modern Art, New York ジョルジョ・デ・キリコ|Giorgio de Chirico(1888年〜1978年) |
彼の「形而上絵画」が時代に登場した1914年(大正3年)・・・
人類史上最初の第一次世界大戦が勃発し、ヨーロッパ全土で足かけ5年にわたった戦争は900万人以上の兵士が戦死し、1918年(大正7年)に終決する・・・
デ・キリコもイタリア軍に召集されフィレンツェの連隊に入隊し、北イタリアのフェッラーラに駐屯する。そして第一次世界大戦以後には作風を変えて、伝統的な技法と題材による作品を制作し時代から忘れ去られて行く・・・
"The Painter's Family" 1926年|油彩・キャンバス|146.5cm×115cm ロンドン テート・ギャラリー蔵|Tate Gallery, London ジョルジョ・デ・キリコ|Giorgio de Chirico(1888年〜1978年) |
1924年パリで、デ・キリコの古典回帰作品に、シュルレアリストたちは1918年以前の作品を重要視し、1919年以降の「職人への回帰」の古典回帰作品を否定する。もともと非常な毒舌家であったデ・キリコは、1926年にそんなシュルレアリスムに哲学か否かと、毒舌をもって決別する・・・
"Ariadne" 1913年|油彩・キャンバス|135.6cm×180.3cm メトロポリタン美術館蔵 アメリカ|The Metropolitan Museum of Art, New York ジョルジョ・デ・キリコ|Giorgio de Chirico(1888年〜1978年) |
しかしそのデ・キリコの作品が一般的によく知られ人気の高いのは、1909年から1919年の約10年間余の作品であり、デ・キリコは当時の形而上絵画時代の成功と利益を得るために、過去の自己模倣作品を制作し販売する。しかしその偽造作品の多くが公共および民間のコレクションに入っていたため非常な非難を浴びた・・・
"The Vexations of the Thinker" 1915年|油彩・キャンバス|46.4 x 38.1 cm サンフランシスコ近代美術館蔵|サンフランシスコ San Francisco Museum of Modern Art, San Francisco, CA, USA ジョルジョ・デ・キリコ|Giorgio de Chirico(1888年〜1978年) |
その後も自己模倣を繰り返し、1948年にはヴィネツィア・ビエンナーレに出展した「不安を与えるミューズたち」は、オリジナルは元々、第一次世界大戦中に描かれた贋作を展示したとして抗議され、この絵は本人によって多くの複製が作られ、その数、少なくとも18作品ほどが発見されている(以下) ↓・・・
"The Disquieting Muses/Le Muse inquietanti" 1916, 1917, or 1918年?|油彩・キャンバス|97.16 cm × 66 cm ミラノ マッティオーリ・コレクション蔵|Gianni Mattioli Collection, Milan A 1947 replica of The Disquieting Muses. De Chirico was known for making replicas of his own art, and made many replicas of The Disquieting Muses between 1945 and 1962. http://en.wikipedia.org/wiki/The_Disquieting_Muses ジョルジョ・デ・キリコ|Giorgio de Chirico(1888年〜1978年) |
デ・キリコは、ヨーロッパのあらゆる都市やニューヨークなどに転々と移り住み、
国も住所も絶えず変わり、自己模倣を繰り返しながら、
ついに何枚描いたかわからない"イタリア広場:Piazza d'Italia"で思考する・・・コチコチと、
"Piazza d'Italia" 1962年?|油彩・キャンバス|同名作品多数 ジョルジョ・デ・キリコ|Giorgio de Chirico(1888年〜1978年) |
そして最晩年のジョルジョ・デ・キリコは、1950年頃からローマのスペイン広場の、
市内を一望できるパラツェット・デイ・ボルゴニョーニの最上階で、
「形而上的」思考の中で、
物のむこう側に存在するこの世で見えないものを描き続け、
後のダダイズムやシュルレアリスムに大きな影響を与えながら、
1978年、90歳の生涯を終え、ローマのヴェラーノ墓地に眠る・・・
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その場所は彼にとって思惟のなかで絶えず描いた、
"イタリア広場:Piazza d'Italia"だったのかも知れない?
そして、彼の絵には今もどこかで、
思考する時を刻む哲学仕掛けの音が鳴っている・・・コチコチと、
(以下・参考サイト)
ジョルジョ・デ・キリコ(Giorgio de Chirico, 1888年7月10日 - 1978年11月20日)は、イタリアの画家、彫刻家。形而上絵画派を興し、後のシュルレアリスムに大きな影響を与えた・・・
http://ja.wikipedia.org/wiki/ジョルジョ・デ・キリコ
既視感(きしかん)は、実際は一度も体験したことがないのに、すでにどこかで体験した ことのように感じることである。フランス語 "déjà-vu"よりデジャヴュ、フランス語由来の 英語 "déjà vu"よりデジャヴまたはデジャブなどとも呼ばれる。 フランス語の vu (「見る」 を ...
http://ja.wikipedia.org/wiki/既視感
既体験感(きたいけんかん)とは - コトバンク
【既視感】より …今までに見たことのない情景を前にして,〈以前すでにこの情景を見た ことがある〉という感じを抱く心的体験で,デジャ・ビュともいう。同類の〈すでに体験した ことがある〉という既体験感déjà vécuと結びつくことが多い。記憶の再認障害に関係が ある ...
https://kotobank.jp/word/既体験感-1298271
形而上学(けいじじょうがく、希: μεταφυσικά,羅: Metaphysica,英: Metaphysics,仏: métaphysique,独: Metaphysik)とは、感覚ないし経験を超え出でた世界を真実在とし、その世界の普遍的な原理について理性的な思惟によって認識しようとする学問ないし哲学の一分野である。世界の根本的な成り立ちの理由(世界の根本原因)や、物や人間の存在の理由や意味など、見たり確かめたりできないものについて考える。対立する用語は唯物論である。他に、実証主義や不可知論の立場から見て、客観的実在やその認識可能性を認める立場や、ヘーゲル・マルクス主義の立場から見て弁証法を用いない形式的な思考方法のこと・・・
http://ja.wikipedia.org/wiki/形而上学
http://ja.wikipedia.org/wiki/形而上絵画
http://ja.wikipedia.org/wiki/ギリシア哲学
http://ja.wikipedia.org/wiki/ソクラテス
http://ja.wikipedia.org/wiki/プラトン
http://ja.wikipedia.org/wiki/アリストテレス
http://ja.wikipedia.org/wiki/Category:古代ギリシアの哲学者
http://ja.wikipedia.org/wiki/ギリシア哲学者列伝
http://ja.wikipedia.org/wiki/思想家一覧
https://jp.pinterest.com/explore/de-chirico/
http://metier.blog.so-net.ne.jp/2014-08-10
http://ja.wikipedia.org/wiki/フリードリヒ・ニーチェ
http://ja.wikipedia.org/wiki/アルトゥル・ショーペンハウアー
http://image.search.yahoo.co.jp/search?ei=UTF-8&fr=appsfch2&p=「木製のマネキン
http://matome.naver.jp/odai/2138324132769724701
http://1000ya.isis.ne.jp/0880.html
ジョルジョ・デ・キリコ -変遷と回帰-終了しました
http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/14/141025/
ジョルジョ・デ・キリコ -変遷と回帰|出展リスト
http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/14/141025/pdf/list.pdf
ジョルジョ・デ・キリコ -変遷と回帰
http://www.museum.or.jp/modules/im_event/?controller=event_dtl&input%5Bid%5D=83045
http://www.museum.or.jp/modules/topics/?action=view&id=548
『ジョルジョ・デ・キリコ -変遷と回帰』展に約100点、自画像など日本初公開作も
http://www.cinra.net/news/20141023-giorgiodechirico
謎以外の何を愛せようか ジョルジョ・デ・キリコ|NHK 日曜美術館
http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2014/1123/
ジョルジオ・デ・キリコ (Giorgio de Chirico) (形而上学的絵画) 美術館
http://art.pro.tok2.com/C/Chirico/Chirico.htm
ピカソが最も恐れた画家「ジョルジョ・デ・キリコ」の不思議な絵 - NAVER ...
http://matome.naver.jp/odai/2138324132769724701
http://www.ggccaatt.net/2014/11/21/giorgio-de-chirico/
デ・キリコ 絵画作品と所蔵美術館
http://kininaruart.com/artist/world/chirico.html
ジョルジョ・デ・キリコの世界
イタリアの首都、ローマの芸術として、すぐにシュールレアリズムや形而上絵画を挙げる人は少ないかもしれませんが、この芸術分野の巨匠の1人、ジョルジョ・デ・キリコは、長年にわたりローマで暮らしていました。晩年の30年間をスペイン広場で過ごしたデ・キリコの住まいは、現在、美術館となっています・・・
http://www.klm.com/destinations/jp/ja/article/the-world-of-giorgio-de-chirico
ローマより愛をこめて
スペイン階段脇には、キーツ・バイロンのメモリアルハウスがありますが、そこの2軒隣には、イタリア・メタフィジカ(形而上絵画)の巨匠「ジョルジョ・デ・キリコ」が自宅兼アトリエとして30年間暮らしていたアパートがあります・・・
http://romamayumi.exblog.jp/16934295/
ジョルジョ・デ・キリコ -変遷と回帰-|パナソニック 汐留ミュージアム
http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/14/141025/
ジョルジョ・デ・キリコ / Giorgio de Chirico
http://www.ggccaatt.net/2014/11/21/giorgio-de-chirico/
http://jesuscat.jimdo.com/2014/11/21/giorgio-de-chirico/
「通りの神秘と憂愁」(1914年)
http://www.ggccaatt.net/2015/01/16/ジョルジョ-デ-キリコ-通りの神秘と憂愁/
「愛の歌」(1914年)
http://www.ggccaatt.net/2015/01/15/ジョルジョ-デ-キリコ-愛の歌/
http://blog.goo.ne.jp/kagecho_001/e/3489c6a584ab85891d3e096c1c6c32c8
http://1000ya.isis.ne.jp/0880.html
http://matome.naver.jp/odai/2138324132769724701?&page=1
http://www.tate.org.uk/art/artists/giorgio-de-chirico-902
http://www.wikiart.org/en/giorgio-de-chirico/hector-and-andromache-1912
http://matome.naver.jp/odai/2138324132769724701?page=2
http://pastport.jp/user/tunodajyuku/timeline/芸術年表/event/KtrMQ61z8VU
http://jijhggujjhjjjjjjjkjkjjj.blogspot.jp/2013_11_01_archive.html
http://jijhggujjhjjjjjjjkjkjjj.blogspot.jp/2013/11/1926-two-masks.html
http://matome.naver.jp/odai/2129776955594647601
ジョルジョ・デ・キリコ/Giorgio de Chirico作品画像コレクション
http://matome.naver.jp/odai/2129776955594647601/2129776963194653803
880夜『エブドメロス』ジョルジュ・デ・キリコ|松岡正剛の千夜千冊
http://1000ya.isis.ne.jp/0880.html
【無人の風景の中の影について】
http://borges.blog118.fc2.com/blog-entry-1689.html
http://matome.naver.jp/odai/2138324132769724701
http://matome.naver.jp/odai/2138324132769724701?page=2
http://www.moma.org/collection/browse_results.php?criteria=O:AD:E:1106&page_number=1&template_id=6&sort_order=1
http://www.wikiart.org/en/alphabet
http://www.wikiart.org/en/giorgio-de-chirico
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