近松門左衛門の「道行」
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それらが互いに重なりあい、奏でる音が時を動かすのか?
大坂の街がもつ財産?とも云える哲学めいた問答は「町人」のエネルギッシュな姿こそ時代をつくる姿だと、過去より永遠にこの街に受け継がれ、この街がもつ感性の文化基軸?になっている・・・
話は・・・
元禄文化も陰りを見せる、元禄16年(1703年) 場所は大坂道頓堀の竹本座、近松門左衛門は井原西鶴が描いた「町人」の自由闊達(かったつ)な世之介の世界に、時の不条理を流麗な七五調で覆いかぶせていく・・・
近松の世話物といわれる「曽根崎心中」は、お初・徳兵衛の相愛の男女が死に場所を求めてさまよう、はかない「死の道行:みちゆき」、語る浄瑠璃太夫に合わせて、三味線が奏で、人形が舞う、人形浄瑠璃。「名文」と絶賛された、七五調の実にリズミカルな文章と、その旋律・・・
夫婦の約束をした恋仲の二人が、何故に曾根崎で心中しなければならなかったのか?
それは、余りにも不条理に満ちた社会、一体その不条理に満ちた社会をつくったのは誰か?
近松は流麗な七五調で「世」に問いかける・・・
「曽根崎心中」道行の段
近松門左衛門 作
元禄16年 (1703年) 大坂竹本座初演
此の世のなごり、夜もなごり
死にに行く身を譬(たと)うれば
あだしが原の道の霜
一足ずつに消えていく
夢の夢こそ哀れなれ
あれ数うれば暁(あかつき)の
七つの時が六つ鳴りて
残る一つが今生(こんじょう)の
鐘の響きの聞き納め
寂滅為楽(じゃくめつ いらく)と響くなり
(死ぬことによって、安楽が得られますよ)
・・・
梅田の橋を鵲(かささぎ)の
橋と契りていつまでも
我とそなたは婦夫星(めおとぼし)
かならず添うと縋(すが)り寄り
二人がなかに降る涙
・・・
心も空も影暗く
風しんしんたる曽根崎の
森にぞ辿(たど)り着きにける
・・・
剃刀(かみそり)取つて咽(のど)に突立て
柄も折れよ刃も砕けと刳(ゑぐり)
刳(く)り刳(く)り目もくるめき
苦しむ息も暁の
知死期(ちしご)につれて絶果(たえは)てたり
誰が告ぐるとは曽根崎の
森の下、風音に聞え
取伝へ貴賤群集の回向の種
未来成仏、うたがひなき
恋の手本となりにけり
浄瑠璃 世話物 三段
曽根崎心中|解説と原文(一部)|古典文学ガイド
http://koten.sk46.com/kinsei/sonezaki.html
近松門左衞門、本名は杉森 信盛(すぎもり のぶもり)・・・
1653年(承応2年)福井県福井市の越前福井藩士の医者・杉森信義と医者の家系の娘・喜里の次男として生まれる。1664年(寛文4年)に父・信義は吉江藩を辞し失職し浪人となり、一家は京都に移り住む。近松11歳・・・
1603年(慶長8年)頃に「出雲の阿国」が踊りを始め「歌舞伎の原型」となった京都の四条河原。当時も四条河原に7件ほどの芝居小屋があり、京都で浄瑠璃が好きな奉公先の公家の影響でその四条河原の文楽座に通い、ついに1677年(延宝5年)、24歳の近松は京の「浄瑠璃語り」の第一人者・宇治 加賀掾(うじ かがのじょう)の弟子となり、したばたらきの修業を続け1683年(天和3年)に30歳でヒット作「世継曽我」を執筆し、芸能の神を祀る近江・近松寺(ごんしょうじ)、その芸能の寺に入ることさえできない門前の小僧と、もじったペンネームで、劇作家「近松門左衛門」は時代に登場する・・・
登場といっても当時の劇作家は名を名乗ることさえ出来ないほど作者の地位が低い・・・
その当時、宇治 加賀掾の一座にいた竹屋庄兵衛という興行師が、加賀掾と喧嘩別れし、1680年(延宝8年)に大坂道頓堀に「竹本座」を立ち上げ、同じく加賀掾の弟子の清水五郎兵衛と名乗っていた竹本義太夫がその座で語りをおこない「義太夫節」と名付けられる骨太&硬派な語りで人気を得る。が、それを知った京都の加賀掾が大坂道頓堀に乗り込み、井原西鶴と組んで竹本座に対抗し井原西鶴作「暦」を公演する。
負けてはならじと、竹本座は近松に新作を依頼し「出世景清」で対抗する。その後、加賀掾一座は原因不明の火災により京都へ撤退するが、近松の「出世景清」は人気を呼び、影の存在の台本作者は、歌舞伎の役者や文楽の語り(太夫)と同格となり、以後台本に作者・近松門左衛門と名記し、やっと、劇作家として時代に登場する・・・
その後、近松は京都で現・南座の人気役者・初代・坂田藤十郎に、40代の約10年間、藤十郎の座付作者として、お客さんの反応や役者の意向に合わせて随時、台詞や演出を変えながら約30本の歌舞伎台本を書きあげてていたが、大坂道頓堀の「竹本座」は歌舞伎に客を取られ借金を重ね、義太夫は起死回生を狙って近松に新作を依頼する・・・
ちょうどその時・・・
1703年(元禄16年) 4月7日に大阪・曽根崎の露(つゆ)天神社(通称お初天神)で醤油屋の手代、徳兵衛(25歳)と遊女お初(21歳)が心中事件を起こす。偶然京都から大阪へ所用で来ていた近松は、現場に足を運び、自由な恋愛が許されない封建社会の不条理を目の当たりにし、その社会の出来事をわずか3週間で書き上げ、事件のちょうど1ヶ月後の5月7日に「曽根崎心中」は竹本座で初演される。またたくまに評判となり義太夫はこの作品一本だけで全ての借金を完納したという・・・
お初天神|露天神社|Googleマップ
そして当時の近松は、1706年(宝永3年)竹本座の座元が竹田出雲に替わっての顔見世興行「用明天王職人鑑」からは座付作者となり、住居も大坂に移って浄瑠璃の新作に専念する・・・
義太夫が他界すると、竹本座をみながら後継者を育成し、1711年の「冥途の飛脚」、そして近松にとっても生涯最大のヒット作となる、日中の混血児が大陸に渡って明朝を再興するという、日本と中国を股にかける大スペクタル、実に17カ月という驚異的な超ロングランを記録した1715年の「国性爺(こくせんや)合戦」、紙屋治兵衛と遊女小春の心中を描いた1720年の「心中天の網島」、借金をめぐる実際の殺人事件を描いた1721年の「女殺油地獄」など、きらびやかな時代の話も時と共に世の巷(ちまた)はおどろおどろしい事件が多発する・・・
時代は江戸中期へ・・・
5代将軍徳川綱吉の1680年(延宝8)から1709年(宝永6年)を広義には元禄時代と呼ばれ、文治政治が展開し、町人の勢力が台頭して社会は活気を呈し、上方を中心に独特の文化が生まれた。
そして「元禄の三代文豪」と呼ばれる西鶴、芭蕉、近松・・・
その西鶴は1693年(元禄6年)に大阪市中央区鎗屋町(やりやまち)で51歳で没し、芭蕉は翌年の1694年(元禄7年)に御堂筋の南御堂前の花屋仁左衛門の貸座敷で客死し50年の幕をおろした・・・
そして、近松が世話物から心中物を書き上げていた頃には、今で云うところのバブル崩壊に似た暗い時代を歩み始め、そして元禄文化は、M8.1の元禄地震(元禄16年・1703年)と、M8.4の東海・南海・東南海連動型地震の宝永地震(宝永4年・1707年)、同年12月の富士山の宝永大噴火の発生によって終焉する・・・
その後、8代将軍徳川吉宗が主導した、年貢の強化や一定の額を徴収する定免法など、財政安定策を行う享保の改革(1716年〜1745年)が行われ、庶民にとって暗い時代が始まり、これら近松の作品に触発されて心中が流行、まして富士山の宝永の噴火や江戸の大火に大飢饉や打ちこわしなどでより流行し、幕府は1723年(享保8年)に心中物の脚本の執筆、発行や上演を一切禁止する・・・
そして、歌舞伎はもとより100作以上の浄瑠璃作品を書き、江戸時代の元禄から享保にかけて一世を風靡し、元禄文化の輝きと消え行く姿を観ながら、まさに元禄のきらびやかな時代と道行きしたかの、劇作家「近松門左衛門」は、翌年の1724年(享保9年)に72年の生涯を終えた・・・
「残れとは 思ふも愚か 埋み火の 消ぬ間徒なる 朽木書きして」
(残り火が消えるまでの短い間に書いた作品が、後世に残ってくれと思うのも愚かなことだなぁ〜)
お墓は国立文楽劇場のすぐ近くの大阪市中央区谷町8丁目の法妙寺跡と、JR福知山線塚口駅の兵庫県尼崎市の近松の菩提寺「広済寺」に、隣りに近松記念館と近松公園があり、静かな時が流れている・・・
(2013年6月11日撮影)
近松記念館|近松公園|広済寺|Googleマップ
(以下・参考サイト)
元禄文化とは、17世紀終わり頃から18世紀初頭にかけて、元禄時代(1688年 - 1707年)を中心として、主に京都・大坂(大阪)などの上方を中心に発展した文化である。特色として庶民的な面が濃く現れているが、必ずしも町人の出身ばかりでなく、元禄文化の担い手として武士階級出身の者も多かった。上方から発生し、朱子学、自然科学、古典研究が発達した。尾形光琳らによる琳派などが活躍・・・
元禄文化はM8.1の元禄地震(元禄16年・1703年)と、M8.4の東海・南海・東南海連動型地震の宝永地震(宝永4年・1707年)、同年12月の富士山の宝永大噴火の発生によって終焉した・・・
http://ja.wikipedia.org/wiki/元禄文化
近松 門左衛門(ちかまつ もんざえもん、1653年(承応2年) - 1725年1 月6日(享保9年11月22日)
http://ja.wikipedia.org/wiki/近松門左衛門
井原 西鶴(いはら さいかく、1642年(寛永19年) - 1693年9月9日(元禄6年8月10日))
http://ja.wikipedia.org/wiki/井原西鶴
松尾 芭蕉(まつお ばしょう、寛永21年(1644年) - 元禄7年10月12日(1694年11月28 日))
http://ja.wikipedia.org/wiki/松尾芭蕉
主な作品|浄瑠璃
1685年(貞享2年)『出世景清』
1703年(元禄16年)『曾根崎心中』
1707年(宝永4年)『堀川波鼓』
1711年(正徳元年)『冥途の飛脚』
1715年(正徳5年)『国性爺合戦』
1719年(享保4年)『平家女護島』
1720年(享保5年)『心中天網島』
1721年(享保6年)『女殺油地獄』
『国性爺合戦』(こくせんやかっせん)は、近松門左衛門作の人形浄瑠璃。のちに歌舞伎化された。全五段。
正徳5年(1715年)、大坂の竹本座で初演。江戸時代初期、中国人を父に、日本人を母に持ち、台湾を拠点に明朝の復興運動を行った鄭成功(国性爺、史実は国姓爺)を題材にとり、これを脚色。結末を含め、史実とは異なる展開となっている。和藤内(鄭成功)が異母姉の夫・甘輝との同盟を結ぶ「甘輝館」が有名。初演から17ヶ月続演の記録を打ち立てた。
http://ja.wikipedia.org/wiki/国性爺合戦
http://ja.wikipedia.org/wiki/鄭氏政権_(台湾)
日本を学ぶ大人の学校「和塾」|近松門左衛門入門ー鳥越文蔵先生 【第二十三回混合クラス】
http://wajuku.exblog.jp/
近松門左衛門でござーい!
http://homepage2.nifty.com/hay/chikamatsu.html
近松門左衛門略年譜|誕生から元禄16年まで
http://homepage2.nifty.com/hay/nenpu1.html
素人控え「操り浄瑠璃史」|第7章 古浄瑠璃最後の光彩
http://homepage2.nifty.com/hay/rekisi07.html
映画「文楽 冥途の飛脚」 近松門左衛門
http://www.bunraku-movie.com/chikamatsu/chikamatsu.html
近松門左衛門の墓 : 風に吹かれて
中央区谷町7丁目交差点の南へすぐのガソリンスタンド手前に、元禄年間を中心として貞享~享保と約40年間にわたり劇作家として活躍し、1724(享保9)年に72歳で没した近松門左衛門の墓がある・・・
http://blog.livedoor.jp/ayabeda/archives/51832830.html
大阪にもあった近松門左衛門の墓
大阪市中央区谷町8丁目
法妙寺境内にあったが、同寺は大東市へ移転し、墓だけは現在地に残ったと言われている。
http://time-az.com/main/detail/7841
所在地:大阪市中央区谷町8丁目
最寄駅:地下鉄谷町線「谷町6丁目」下車、谷町筋を南へ
谷町7丁目交差点南へすぐ、ガソリンスタンド手前
http://www12.plala.or.jp/HOUJI/bunkajin-haka/newpage350.htm
近松門左衛門の墓:O-TUBE
http://otube.osakazine.net/e343880.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/元禄赤穂事件
『仮名手本忠臣蔵』(かなでほんちゅうしんぐら)とは、人形浄瑠璃および歌舞伎の演目のひとつ。寛延元年(1748年)8月、大坂竹本座にて初演。全十一段。二代目竹田出雲・三好松洛・並木千柳の合作。元禄赤穂事件を題材としたもの。通称『忠臣蔵」・・・
http://ja.wikipedia.org/wiki/仮名手本忠臣蔵
竹本義太夫(たけもとぎだゆう、慶安4年〈1651年〉 - 正徳4年9月10日〈1714年10月18日〉)とは、江戸時代の浄瑠璃語り。義太夫節浄瑠璃の創始者。本名五郎兵衛、初期には清水五郎兵衛と名乗る。のちに竹本筑後掾と称した・・・
http://ja.wikipedia.org/wiki/竹本義太夫
宇治加賀掾 【うじ・かがのじょう】朝日日本歴史人物事典の解説
江戸前期、上方の浄瑠璃の名太夫。本名徳田太郎左衛門。号竹翁。はじめ宇治賀(嘉,加)太夫と名乗り、43歳で受領して加賀掾宇治好澄と名乗る・・・
http://kotobank.jp/word/宇治加賀掾
徳川 吉宗(とくがわ よしむね)は、江戸幕府第8代将軍。将軍就任以前は越前国葛野藩主、紀州藩第5代藩主を務めた・・・
http://ja.wikipedia.org/wiki/徳川吉宗
享保の改革(きょうほうのかいかく)は、江戸時代中期に行われた幕政改革。8代将軍徳川吉宗が主導した諸改革で、在任期間の1716年から1745年の年号に由来する・・・
国家政策・公共政策
倹約と増税による財政再建を目指し、農政の安定政策として年貢を強化して五公五民に引き上げて、検見法に代わり豊凶に関わらず一定の額を徴収する定免法を採用して財政の安定化を図る・・・
http://ja.wikipedia.org/wiki/享保の改革
http://ja.wikipedia.org/wiki/江戸時代
江戸時代年号表|江戸時代(前期)
http://www.7key.jp/data/j_history/edo1.html
江戸時代年号表|江戸時代(後期)
http://www.7key.jp/data/j_history/edo2.html
露 天神社(通称:お初天神)
http://www.tuyutenjin.com/
おはてん - 曽根崎お初天神通り商店街
http://www.ohatendori.com/
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